相続手続きで必要になるのが「遺言書」です。もちろん共同相続人間で話し合いで相続財産の帰属を決める「遺産分割」もありますが、遺言書があれば被相続人(亡くなった方)の意思を重視すべく、こちらが優先されます。
この遺言書の読み方ですが、「ゆいごんしょ」と一般的には呼ばれます。しかし正確には「いごんしょ」が正しく、弁護士や司法書士、税理士など相続業務にかかわる士業の方は「いごんしょ」と呼んでいるケースが多いです。
遺言書に話を戻しましょう。遺言書には、
- 被相続人が自筆で遺言書を作る「自筆証書遺言」
- 公証役場で公証人の下で作成する「公正証書遺言」
- その中間タイプの「秘密証書遺言」
があります。そして安全確実なのが「公正証書遺言」ですが、費用が結構掛かります。この費用さえ手軽なものであるならば利用者も多くなると思いますが、相続する資産の価値にもより、10万円以上の費用は覚悟しておく必要があります。
この「公正証書遺言」の作成には公証人はもちろんですが、2人以上の証人による立会いが必要です。この証人ですが、遺言内容と関係のある方はできません。したがって例えば子供とか妻とかは出来ないと思います。
したがって証人は赤の他人である必要があります。「そんな証人になってくれる人なんか、周りにいないなぁ」と言う声が聞こえてきそうですが、私が相談に訪れた公証役場では一人あたり8,000円で証人を斡旋(あっせん)してくれるそうです(そのうちのいくらが公証役場に入るのか興味深いです)。
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いよいよ検認がスタート
今回はいろいろあり、被相続人(亡くなった方)が「自筆証書遺言」の方法を選択されました。そこで共同相続人の代表として、家庭裁判所で検認をすることになりました。
この検認ですが、裁判官の下で遺言書を確認し、その後の偽造・紛失を防ぐ作業です。この検認の意味については正確性を期するため裁判所のホームページから引用します。
遺言書の検認
(中略)
検認とは,相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに,遺言書の形状,加除訂正の状態,日付,署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。遺言の有効・無効を判断する手続ではありません。遺言書の検認 | 裁判所裁判所のホームページです。裁判例情報、司法統計、裁判手続などに関する情報を掲載しています。
このように遺言書の偽造・変造を防止するための手続であり、形式的な作業です。したがって遺言書の中身について、裁判所がどうこう判断するものではありません。
検認の手続きへ
さて検認の手続きについてです。まず裁判所への申立書、そして被相続人や相続人(財産を受け継ぐ人)の戸籍謄本を用意しなくてはいけません。
最初に申立書ですが、裁判所ホームページに「書式」が用意されています。これ(「家事審判申立書」)をダウンロードして記入します。
▲「裁判所|遺言書の検認の申立書」(画像は裁判所ホームページから)。このページから「家事審判申立書」のほか、この後に説明する「当事者目録」および「記入例(遺言書検認)」の各PDFファイルがダウンロードできます。
申立書の記入方法は?
記入方法ですが、同じページに記入例PDFファイル(「記入例(遺言書検認)」)があります。こちらを参考に書くだけです。
検認も面倒だと思い弁護士に依頼する方もいらっしゃるようですが、記入例を見ながら申立書を書くだけです。費用も掛かりませんし、ぜひ自分で検認に挑戦してください。
(画像はイメージです)
なお相続人が多くて申立書の欄に入らない場合は、同じページにある「当事者目録」を使ってください。1枚当たり3名の相続人が足せるようになっており、相続人の方の数に応じて、先の家事審判申立書に数枚足していくイメージです。
これが大変!戸籍謄本集め
自分で相続手続きを行う際に最もハードルが高いのが、「戸籍謄本集め」です。ご主人が亡くなって、配偶者と子供が相続する場合は大変ではありませんが、相続人が兄弟姉妹の子(代襲相続)の場合だと極めて大変です。私の場合がまさにこれで、戸籍謄本だけで65枚という分量になりました。
この戸籍謄本ですが、被相続人に関しては生まれてから死亡するまでの「連続した」戸籍謄本が必要です。これは相続する子供を確定するためです。
ご家族ならば被相続人が生涯に授かった子供は当然わかります。しかし全く無関係の第三者から見たら、まだ他にも子供がいるかもしれないと思うじゃないですか。したがって子供を確定させるために、生まれてから死亡するまでの「連続した」戸籍謄本が必要なのです。
原戸籍(はらこせき)とは?
次に戸籍謄本集めが大変な理由が、「原戸籍(はらこせき)」の存在です。戸籍もコンピュータ化などでバージョンアップをすることがあります。このバージョンアップ前の戸籍謄本が「原戸籍」です。
したがって「連続した戸籍謄本」となると、同じ住所に住んでいても原戸籍も併せて必要になることがあり、被相続人だけで数種類の戸籍謄本が必要になります。また本籍地を何度も変えている方は、更にその土地ごとの戸籍謄本が必要です。
そして今回のケースでは相続人となる兄弟姉妹が死亡し、その子供が代襲相続を行ったので、この兄弟姉妹に対しても、その子供を確定するために「連続した戸籍謄本」が必要となり、最終的には60枚以上の戸籍謄本が集まりました。
この戸籍謄本集めですが、その煩雑さから司法書士など法律職に依頼する方もいらっしゃるでしょう。しかし面倒なのは最初だけで、郵便小為替の購入方法(郵送による戸籍謄本の請求の場合)などコツが分かれば自分でできます。何より同じ作業の繰り返しです。
また戸籍謄本は本人が請求するものですが、「やり方が分からない!」という相続人がいれば、委任状を書いてもらい、相続に詳しい(あるいは勉強した)他の相続人がやればいいだけです。また委任状の雛形も市町村役場のホームページにあります。
(画像はイメージです。)
こんな感じで検認に必要な戸籍謄本をすべて集めました。いよいよ裁判所に出かけます。これについては次の章で扱います。
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いざ家庭裁判所へ
前の章で書いた「申立書」+「戸籍謄本」を持って、被相続人の最後の住所を管轄する家庭裁判所に出かけます。
申立書には800円の収入印紙(2016年8月現在)を貼りますが、書式に間違いがあるケースも想定されます。収入印紙は、家庭裁判所の受付の方(書記官)に内容を確かめてもらった後に、貼ると良いでしょう。
戸籍謄本のコピーをとっておく【原本還付】
さてその前にやるべき作業があります。これは戸籍謄本のコピーを用意することです。これは戸籍謄本を裁判所に提出してしまうと、戸籍謄本は戻ってきません。これでは銀行での相続手続きにあたり、また膨大な戸籍謄本を用意する必要があります。
そこで戸籍謄本のコピーを用意して、原本と共に家庭裁判所に提出します(これを「原本還付」と呼ぶ)。この原本還付の手続きにより、検認終了後に戸籍謄本の原本が戻ってくる仕組みです。
この原本還付ですが、法務局における不動産の相続手続きでも同じように行います。これに対して銀行の相続手続きでは銀行側が自ら確認しながらコピーを行います。したがって銀行では1時間近く待たされることがありますが、コピー作業の煩雑さから解放されます。またその場で原本を返却してくれるメリットもあります。
なお裁判所へ書類を提出する際には、被相続人と相続人の関係を記した書類「相続関係説明図」を作って添付すると良いでしょう。この「相続関係説明図(※)」ですが、不動産の相続手続きでも必要となります。司法書士に依頼すると1部5,000円から1万円ぐらい取られますが、作り方はネット検索で分かります。ぜひご自分で作ることをおすすめします。
次に受付で内容を確認してもらいます。相続手続きに長けた書記官ですので、そんなに長い時間はかかりません。そして検認についての説明が簡単にあります。検認は書類提出から約1か月後に組まれました(裁判所による)。
1か月後というと長いようですが、
- 検認は毎日やっている訳ではない(私がお世話になった裁判所は週1回)
- 共同相続人すべてに検認手続の通知が発送される
等の理由で、1か月前後の時間が必要なようです。
ひとつ忘れました。検認の申請には申立書・戸籍謄本のほか、通知用切手(相続人の数+アルファの切手)が必要です。この切手の枚数の件も含めて、いきなり裁判所に行くのではなく、あらかじめ電話で問い合わせるのがベストです。
なおこの1か月間の間に相続人に裁判所から、本人に検認を行う旨の封筒が届きます。詳しくない相続人の方などの場合、裁判所から通知が届いて腰を抜かすケースがあります(実際にそうだった)。したがって事前に他の相続人に説明しておくと良いでしょう。
また裁判所から届く封筒ですが、封筒の表紙には名宛人と発送人の住所と電話番号のみだけが書いてあり、他は何も書いていないという不気味な封筒です。もっともこれは他の方に裁判所から封筒が届いたことを知られないための配慮なのでしょう。
▲こんな感じの封筒が届く。表面には住所と電話番号の記載はあるものの発送人名は書いていない、何とも不審な封筒です。
検認の日には申立人ほか、他の相続人が参加しますが、前にも申したように遺言書の中身についての判断はありません。あくまでも偽造なのかとか形式的な判断の場です。したがって遺言書自体に争いがなければ、申立人の参加だけで十分です(私の場合がそうでした)。
なお申立てから検認が行われる日(以下「検認期日」と呼びます)まで1か月間近くあり、この間は手元に戸籍謄本原本がありません。したがって銀行等の相続手続きもできませんので、この期間を利用して、相続人の間で連絡を行っておくと良いでしょう。
いよいよ検認!裁判所へ
家庭裁判所には30分前ぐらいに行きました。待合室があり、他の検認もあるのでしょうか、年配の方が数名いらっしゃいました。
そして検認です。検認の場所ですが、テレビで見るような法廷ではありません。ごく普通の「会議室」でした。この会議室ですが、テーブルが「コ」の字に並べられ、中央に裁判官と書記官、ドアに近い片方に私が座ります。
まず書記官の簡単な挨拶があり、数分後に裁判官が入室してきました。年齢は35歳ぐらいの女性裁判官の方で、表情が乏しく決して美人とは言えない、しかし頭が良さそうな方でした。ここから検認が事務的にスタートします。
そして数分後に裁判官が退出。挨拶とか会釈など一切なし。
こんな感じで検認は終わり。時間にして5分でしょうか。こんな短い時間の手続ですから、この検認の為にわざわざ遠方から来る必要はありません。
繰り返しになりますが、検認は「遺言書の形式的判断および、その後の偽造・変造を防止するための手続」です。争いがなければ、申立人だけで十分です。
検認手続もいよいよ大詰め
そして裁判所近くのコンビニで収入印紙を購入します(確か400円?)。検認の場所からコンビニに移動し、また書記官が待つ事務室に戻ります。「こんなことなら予め購入していたのに」と思いましたが、建前としては裁判官による検認が終わってからと言うことなんでしょう。
そして待合室で待つこと10分ぐらい。親切そうな書記官が「検認期日調書」と「戸籍謄本の原本すべて」を渡してくれました。この検認期日調書とは、遺言書原本が用紙に貼られて裁判所の割印が押してあるものです。
この検認期日調書付きの遺言書を、戸籍謄本とか他の書類と一緒に持っていくことで、銀行とか法務局での相続手続きがスムーズに進みます。例えて言うならば検認期日調書は水戸黄門の印籠みたいなものでしょうか。
検認を経験してみて
実際に検認を経験して言えることは、「自分でできる」と言うことです。確かに戸籍謄本を集めるのは大変ですが、一度戸籍謄本を集めてしまえば、その後の銀行での相続手続きや、法務局での不動産相続手続きでも流用できます。大変なのは最初だけです。
何よりネット検索したところ、ある弁護士事務所では検認の費用として10万円(戸籍謄本収集は別料金)と言うところがありました。検認を終えた今、「さすがに10万円はないよな、1万円なら頼むかも」という感じです。
士業に頼むとしたら、相続税対策で税理士に相談ぐらいですね。非課税枠の縮小や、各種特例の申請期限など、素人では難しいと思います(特に不動産の評価が難しい、小規模宅地等の特例とか)。
(画像はイメージです。)
【画像】検認期日調書はこんな感じ
ここで検認期日調書の画像をアップロードしておきます。もちろん内容にはモザイクを掛けますが、こんな感じで終わるのか、という印象を持たれれば幸いです。
これから高齢化社会がますます進み、相続の機会は確実に増えます。ご自身もそうですし、また周りの方で相続が発生し相談に乗ることもあるでしょう。相続の勉強をしておくことで、周りの方にも喜ばれるし、また自分の勉強にもなります(なお有料の法律相談はできません。弁護士法72条の違反になります)。
こんな感じで初めての検認が無事終了しました(そう何度も経験するものではありませんが)。ひとつ悔いが残っているのは、検認を担当した無愛想な女性裁判官です。米倉涼子さんみたいな感じの女性裁判官などとは高望みは決していたしませんが、もう少し表情豊かな方ならば良い思い出になったのですが。あーあ(終わり)。